１．運送芸術
Ｓ Ｐ Ｒ Ｉ Ｎ Ｋ Ｌｉｎｋ ｄ．ｄ．ｇ．
(2)
() ()Ｐ Ｒ Ｉ Ｎ Ｃ Ｌｉｎｋ ｄ．ｄ．ｇ．
じまった。
１．運送芸術
カーテンコールが終わって、席を立とうとすると、
まーちゃんは、
いつもオペラ･グラスを入れている、小さなきんちゃく状のふくろがないって気づく。
おとしたのかなと思って下をみると、
隣りの席のひとの靴ひもにきんちゃくのひもがひっかかっている。
隣りの席のひとは、そのまま行ってしまう。
ｄｉｚｚｙ
まーちゃんのほうはまーちゃんのほうで、今、
困ったことに両足がひとつにくっついてしまっている。
右足のミュールの甲のところについてるスパンコールが、
左足のくるぶしあたりのネットタイツにひっかかってしまった。
光るスパンコールのその一粒が、ネットにぐるぐるまきになっている。
（だから、まーちゃんは、今までずっと、
両足をほんの１ミリだって動かせないというへんてこな状態で舞台をみていたのだ。）
通路を歩くグレーの制服のひとを呼び止め、
この窮状を説明し、結局、はさみをもってきてもらうことに。
しかたなくタイツを切断すると、足ははなれた。
お礼を言って、はさみを返し、
まーちゃんはすぐにさっきの隣りの席のひとを追いかける。
出口付近に、ふわふわ弧を描くように足を躍らせているひとがいる。
小さなふくろがポサッと床におちる。
小さなふくろは、よくなくなる。
小さなふくろはあっても、なくても、
人生は、ときどき、なくなる！
と、まーちゃん。
「えっ？」
と、そのひと。
「えっ、ぼくの足読めたの？そう、ぼく今、片足のやわらかい動きだけで
”あ”っていうヴィジョンを表現していたんだよ。」
「あーちゃんって呼んでいい？」
「Ｏ．Ｋ．・・・はい、これ。」
あーちゃんは、小さなきんちゃく状のふくろをまーちゃんの手のひらにのっける。
ｖｉｓｉｏｎあるいはｍｅａｎｉｎｇと言うとき、わたくしたちは、ほんとうは、
明日
と言っているのである。
ｄａｚｚｌｉｎｇ
今夜
クラブｂのパーティに顔をだすことになっているとあーちゃんが言うので、
まーちゃんもいっしょに行ってみることにする。
「せーちゃん、がんばってー！」
クラブｂのみんなの声援がとぶ。
せーちゃんは、ジャズとかいろいろな歌を、ときどき歌っている。
今日は、ちっとも楽譜どおりじゃない気分。
♪ in the rolling ｔｒａｆｆｉｃ's ｂｏｏｍ
in ｔｈｅ ｓｉｌｅｎｃｅ ｏｆ ｍｙ ｌｏｎｌｅｙ ｒｏｏｍ
というところの、
the rolling ｔｒａｆｆｉｃ's ｂｏｏｍ
のｂｏｏｍを
「ｂｏｏｏｏｏｏｏｏ〜ｍ」って４拍のばして、
♪in the rolling ｔｒａｆｆｉｃ's ｂｏｏｏｏｏｏｏｏ〜ｍ ｌｏｎｌｅｙ ｒｏｏｍ
ってフェイクしたら、おもしろくない？
とかんがえている。
けれど、そんなせーちゃんのかんがえを知るはずもないみんなは、
こんなふうに思う。
「あっ、歌詞わすれてる。たすけてあげなきゃ。」
みんなは、せーちゃんがとばしたところをあたたかく大合唱。
「え〜っっ。」
というせーちゃんのひそかなつぶやきが、みんなの笑顔のなかへと
まーぶるもように溶けていくのである。
ｇｌｉｔｔｅｒｉｎｇ
そのとき、
たえまない恍惚のなかからポンととびだして
まーちゃんは思う。
（きもちは、島。）
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（足は、アートのようなもののかたまり。）